かねてからroloさんにお伺いして行きたいと思っていた、
オオカミの保護施設 UK Wolf Conservation Trust に行ってきました!
この団体は、オオカミの保護と啓蒙を目的としています。
とはいっても、イギリスではオオカミは完全に絶滅しているので、保護→繁殖→自然に返す訳ではありません。生涯このセンターで親善大使として飼われます。
オオカミが絶滅した原因としては、社会に深く根付くオオカミへの誤解があるとのこと。赤ずきんちゃんのお話にも見られるように、ヨーロッパではオオカミ=悪というイメージが非常に強いのです。本来はある程度数が減った所で人間側には害はなくなるから放っておけばよいものを、オオカミだけは根絶させるまで徹底的に狩りを行いました。最近では、逆にオオカミが絶滅したことで生態系のバランスが崩れていることがわかり、アメリカのイエローストーン国立公園ではオオカミの再導入が成功を収めています。(詳しくは wikipedia をご参照ください。)
この団体の創始者は、相当のお金持ちのようで、アラスカで出会ったオオカミに感動し、趣味で(?)オオカミを飼い始めたことから始まります。その後、世間で言われている害獣のイメージとは全く違うことがわかり、正しい知識を広めるためにこのセンターが創設されました。センター自体も彼の広大なファームの中にあり、なんとその広さは50エーカー。
今回は、"Predator to pet" というワークショップに参加。
ディレクターのSueより、その名の通り、オオカミと犬についての興味深いお話が聞けました。
従来オオカミの行動の研究は、囲いの中で人工的な環境、人工的な群れで行われてきたため、自然の中で暮らすオオカミのそれとは若干違います。本来は家族で群れを作るし、必ずしもボスが一番にごはんを食べる訳ではありません。
研究結果だけが独り歩きして犬に適用し、犬が人を咬むのは支配的だとか、Hierarchy と Resource guarding が混同されて、おかしな誤解を生む要因の一つになってしまったのですが、それは別の機会にちゃんと書くとして、本来のオオカミの行動と犬の行動はそっくりなものがたくさん。オオカミの研究をすることで、犬の行動の不思議-例えば、なぜくさいにおいをゴロゴロしてつけようとするのか、なぜ人の口をなめたがるのか等々、がわかってくるのもおもしろい。(これを比較した映像たっぷりのビデオをもらいましたので、ご希望の方はご連絡ください。お家で上映会いたします♪)
ちょっと長くなりますが、ワークショップの中で話にあがったことをまとめてみたいと思います。
Genetically very close
その昔は犬の祖先はオオカミか、ジャッカルか、と議論された時代もありましたが、見た目や行動から分類していた時代が、遺伝子の類似で分類する時代に変わり、オオカミが犬の祖先であることはほぼ間違いのない事実となっています。
学名上も、最近見直され、
Grey Wolf :Canis Lupus
Domestic Dog :Canis Lupus familiaris
とオオカミの仲間として分類されています。遺伝子的には99.6%同じなのだそう。
まぁ、人間とキャベツの遺伝子も50%は同じなんだそうで、数字に依存して判断しちゃいけないそうですが(笑)
特に、オオカミが祖先というと、ハスキーなどの見た目が似た犬種を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
ところが、驚いたことに、遺伝的に最もオオカミに近いのは、柴犬!わぉ、日本犬です。
以下、85犬種の遺伝子調査によって、遺伝子的に近い順に並べたものです。
Reference :Genetic Structure of the Purebred Domestic Dog/Science Vol.304 21 May 2004
Gray Wolf グレイウルフ
Shiba Inu 柴犬
Chow Chow チャウチャウ
Akita 秋田
Alaskan Malamute アラスカンマラミュート
Basenji バセンジー
Shar-pei シャーペイ
Siberian Husky シベリアンハスキー
Afghan Hound アフガンハウンド
Sakuki サルーキ
Tiberan Terrier チベタンテリア
Lhasa Apso ラサアプソ
Samoyed サモエド
Pekingese ペキニーズ
Shih Tzu シーズー
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中国、チベット産が上位を占めているのは、古代に犬種が確立されて、それ以降変わっていないからだとのこと。日本は?うーん、あまり犬種を作るということはしていないと思うので、島国だからでしょうかね?
最も初期の犬の原型をとどめていると言われる、ファラオハウンドやイビザンハウンドなどのエジプト産の犬は、遺伝子的には意外にも遠く、近年になって他の犬種との交配が進んだのではないかと考えられています。
遺伝的に近い=行動が似てる、とは必ずしも言えませんが、ガンドッグやシープドッグはその行動を強く持つ個体を繁殖していったので、行動が特化されていきました。それに比べ、上記のような犬種は、比較的オオカミに近い行動を残しています。(それゆえ、トレーニング上は難しいと言われがちな犬種たちです。。)
How were dogs domesiticated?
現在では、14,000~40,000年前にオオカミから犬にわかれたという説が有力だそうですが、その後もこの大変近い動物、狼と犬は時に交配をすることも。イタリアでは現在も野性のオオカミと野放しにされている犬の交配が確認されているそうです。
オオカミとイヌは本当に良く似ています。見かけも行動も。
このセンターにいるオオカミも、赤ちゃんの時から人間に育てられている子は本当によく社会化されていて、フレンドリーです。ちなみに、犬の社会化期は約12週間ですが、オオカミは約3週間とのこと。なので、この子達は親善大使となるべく、生まれてすぐサファリパークなどから引きとられ、人の手で育てられました。
それでも、社会化された「野性」の動物と、家畜化された動物は、違います。
センターの方はこう表現していました。
We can't have either a house or a wolf.
Although you raise a wolf pup as a dog, he acts as a wolf.
要は家が壊れるってことで ^^;
以前にBBCの番組でも紹介されていましたが、ロシアで野性のシルバーフォックスを家畜化するという実験が行われました。野性のキツネの中から、人間にフレンドリー=警戒して近づかない距離が短い個体を選んで繁殖した結果、数世代で(何世代だったか失念・・)フレンドリーな個体=家畜化された個体ができたとのこと。
驚くべきは、犬との共通性。白黒のボーダーコリーのような模様、たれ耳、丸い目、吠える、体型の小型化、脳のサイズの小型化等々、これらの特徴は家畜化された哺乳類に共通する特徴なのではないか、と推測されています。
さて、犬に話を戻しますと、犬は昔の人間によってフレンドリーなオオカミを選んで繁殖されたのでしょうか?
答えはNO。最初はただ人間の近くに住んで、おこぼれをもらうことで距離を縮めっていっただけ。人間の方としても、オオカミがいることで他の野性動物から身を守ることができ、相思相愛の関係ができたということ。
犬は家畜化されて人に対する警戒心は薄れてきているものの、まだゼロではない。
イギリスでは、犬が子供を咬んだという事件が度々大きく報道されていますが、そういった事件もきちんと犬を理解して接していれば防げること。
おもしろいのが、一番大きな違いは、子供の育て方とおっしゃっていたこと。
オオカミは群れ全体で、子供を育てます。親だけでなく仲間がごはんをあげたり守ったり。
ところが犬は、母親が全部その役目を果たす。そのかわり、人間をヘルプしてくれるから、とのこと!な、なるほど~ ^^;
So, are they similar?
行動はほぼ同じ。それは見ていても実感しました。
思わずオオカミであることを忘れてしまいそうになるくらい。
高さ約3mの柵の中が、オオカミの広場。2.5エーカーって言ってたかな。
ただ広いだけではなく、山があったり林があったり、できるだけ自然な環境に近づけるという趣旨が見えるようでした。
一頭のオオカミが近づいてきた。耳を寝かせて、まるで子犬のようにうれしそうに私たちにアピールする様子は、本当に犬そのもので正直びっくり。
Canadian Wolf、2歳。毛の生え換わりの時期らしく、シルバーとブラックがまだらになっている。この子はフレンドリーな行動は見せないものの、みんなが柵越しに見つめていても全く動じず横になっていました。
今回いっしょに案内してくれたスタッフさん。
Dumaは本当にこの人が好きなようで、呼ばれたらうれしそうに近づいていく。
自らおしりを向けて、なでてのポーズ。
なんて穏やかで気持ち良さそうな顔。
とはいえ、やはり野性動物。誰にでも慣れるという訳でもないそうです。第一印象でほぼ決まり、一度警戒心を持たれたら、それを覆すのはほぼ無理とのこと。
彼女は本当に自然にオオカミと接していて、すべての子から慕われていてました。
とはいえ、遺伝子レベルでの Wild と Domestic animal の違いはやはり大きい。
'SAFETY RULES AND REGULATIONS FOR WOLF CONTACT'
今回は、柵から出してお散歩に同行させてもらったのですが、同意書書きました。
必ずスタッフの指示に従うこと、姿勢を低くしないこと、ファーなどは着ないこと、カメラは壊されても保障しないこと、等々。
赤ちゃんの頃から人間に育てられているとはいえ、やはり野性がいつ目覚めるかわかりません。万が一に備えて必ず2人で鎖を持っています。この子は European Wolf の Duma。
Amazing!な写真でしょ?お散歩用の敷地の横にはヒジツが放牧。ちらばっていたヒツジが体を寄せ合い、一時もオオカミから目を離しませんでした。凛といっしょにカントリーサイドを散歩していると、よくヒツジに出会いますが、こんなに緊張して見られたことはありません。やはり捕食動物のにおいは違うのかなぁ。
でも、Dumaは一瞬ちらりと見ただけで、興奮することもなく通り過ぎる。社会化されているってこういうこと。(万が一に備え、柵のすぐ横にはスタッフ数人がいつでも止めに入れる体制を敷いていましたが。)
でも、社会化したから安心ではないんです。
オオカミに限らず、犬の世界でも私はそうだと思いますが、遺伝的に捕食や攻撃という本能をどれだけ強く持っているかは、その個体によって違います。これはトレーニングや社会化で抑えることはできても、完全になくすことは絶対にできない。
'Remember,
dogs are predators and this innate bahaviour cannot be trained out!'
犬は捕食動物、その行動はトレーニングで除くことができない、ということを忘れないで。
資料に書かれていた一文です。
そしてなんと、1人1回触る機会もありました。
まずは手のにおいをかがせ、何者であるか確認してもらいます。
ほんの一瞬においをかげばわかるから、すぐに興味をなくす。このタイミングで横に移動。
なでるのはおなかだけ。かなり強めになでるよう注意されました。
堂々とふるまうのがポイント。絶対に姿勢を低くしてはいけません。
気持ちよくなかったのか、一瞬振り向くDuma。
こういう時のために、左手は出しっぱなし。いつでもにおいをかげるようにしておきます。
しばらくして、動き出したら終わり。
やはり知らない人に触られるのはストレスなので、1人終わる度に、あくびをして、地面をひっかく。これも犬といっしょだぁ。
動画バージョンはこちら。
これが親善大使としてのお仕事とはいえ、かなりストレスを感じている様子に、触るのを躊躇してしまう程。うーん、これってどうなんだろう。とちょっと考えてしまいました。
ここに訪れる前は、やはり野性動物だから犬とは違うんだろうな、という期待をいだいていたのですが、正直同じすぎて拍子抜け。
でも、私のその気持ちの裏には、犬は安心という過信があるんだな、と気付く。
似て非なるもの。Domesticarion(家畜化)のレベルと Socialization(社会化)のレベルを混同してはいけない、ということを肝に銘じました。
犬が犬らしく生きることができるように、犬本来の姿を探究するのは私の仕事、というか趣味。
オオカミを通して犬を考える、というまさにぴったりな機会をいただけました。
ですが、啓蒙活動のため、という意図も理解できるものの、このためだけに育てられたオオカミは幸せなのだろうか、という疑問は、個人的に最後までぬぐえず。チャリティー団体の在り方って、本当に難しいなぁと思います。
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